化学合成オイルのメリット&デメリットを知る
化学合成オイルは高性能の代名詞?
レースや雑誌によく取り上げられている化学合成オイルは、
「高性能の代名詞」とされています。
しかし、本当に化学合成オイルは高性能なのでしょうか?
メリットの他にデメリットはないの?と疑問をお持ちになりますよね。
エンジンオイルの性能は「ベースオイル」で決まります。
…と言いたいところですが、実は少しだけ違います。
ベースオイルの性能も大事ですが、それだけではありません。
配合する「添加剤」との組み合わせと「作り方」で決まります。
そこに「お客様が求める性能がマッチするか・しないか」なのです。

「お客様が求める性能を満たすエンジンオイル選び」が重要
エンジンオイルを探す際に、お客様が求める性能は多岐に渡ります。
価格、燃費、漏れ防止、白煙防止、最高のエンジンレスポンス、保護性能…
「何かいいオイル無いかな?」と漠然と探していませんか?
どのオイルも高性能、高い潤滑性、高いエンジン保護性を謳っています。
そこに違いはあるのでしょうか?ある場合は、どのくらい違うのでしょうか?
例えば求める性能が「燃費」だった場合。
「潤滑性が高いオイルを選んだのに、燃費が良くならない」
ということは度々発生します。
考え方自体は間違いではありません。
しかし、潤滑性だけを求めても、燃費は良くならない場合が多いのです。
その理由は、エンジンの構造と深く関わっています。
更に言うと、エンジンの構造とオイルのマッチングが必要となってくるのです。
つまり、エンジンオイルを選ぶ時には「お客様が求める性能を満たすエンジンオイル選び」が重要となってくるのです。
上記を踏まえて、本記事では、化学合成オイルのメリット・デメリットからエンジンオイルの選び方についてご紹介いたします。
化学合成オイルのメリット
流動性が高い
化学合成オイルはサラサラした流動性の高いオイル
化学合成オイルには大きく分けて3種類のグループ(※)があります。
グループ3・グループ4・グループ4の3種類です。
※グループとは、基準別にまとめたベースオイルのグループのこと。グループ2だけでも200種類以上ある。全部含めると1000種類以上。各グループの詳細は省略。
共通するメリットは、なんと言っても「流動性が高い」こと。
流動性とは、「サラサラとして流れやすい」という意味。
オイルは、少し隙間がないと動きません。
その少しの隙間を最小限動かすだけで良いのです。
つまり、「オイルはドロドロしたものよりも、サラサラした水のようなものが良い」ということになります。
粘りは逆に邪魔になっているのですよね。
近代のエンジンが化学合成オイル指定になっている理由の一つは、流動性が必要だからです。
なぜオイルは流動性が高い方が良いのか?
では、流動性が高いと、何にメリットがあるのでしょうか?
それはオイルポンプを通過する時の抵抗の少なさにあります。
サラサラなオイルが通過すると、ドロドロのオイルがオイルポンプを通過する時よりも、抵抗が少なくなるということです。

※オイルが通りにくいからと言うと、中にはオイルが循環しなくなって、焼き付くと勘違いする人が必ずいます。焼き付くことは決してありません。
エンジンのオイルポンプは、クランクシャフトに直結しています。
そのため、オイルがドロドロになると、クランクシャフトが回転しにくく感じ、アクセルを踏んだ時にエンジンレスポンスが落ちたように感じるわけです。
近代のエンジンは、その流動性の高さを利用して燃費を良くしたり、排ガス中のCO2を減らすことに貢献できています。鉱物オイルでこの低粘度を作ることはできません。
化学合成オイルのデメリット
熱に弱く、せん断に弱い
高い流動性はポリマーによって作られる
化学合成オイルは、上記に記載した高い流動性を持つため、「ポリマー」を添加して粘りを作り上げるのが一般的です。
ポリマーとは「粘度指数向上剤」といいます。つまり、粘りを増やすための「増粘剤」。
料理をするとき、水に片栗粉を入れて加熱すると、ドロドロになりますよね。
それと同じで、エンジンオイルをドロドロにさせるための添加剤です。

このポリマーを使って、0W-20,5W-30,5W-40,10W-50の粘度を強制的に引っぱり上げているわけです。
既にお伝えした通り、化学合成オイルは流動性が高いのがメリットです。
この流動性の高さには、ポリマーが寄与しています。
なぜなら、ポリマーは熱が加えられると、油温が適温になる際に粘りが落ちて、流動性が高くなる設計だからです。
化学合成オイル本来のメリットを最大限に発揮できる作り方ではないかと思います。
ポリマーは熱に弱く、せん断に弱い
一方、デメリットがあります。
それは、このポリマーは「熱に弱く、せん断に弱い」ということ。
「せん断」とは、物が切断される方向に力が加わること。
豚肉で例えると、細切れミンチにすることです。
新油のエンジンオイルはとてもドロドロしています。
使っていくうちに、ドロドロだったエンジンオイルはサラサラに変化していきます。
エンジンオイルを使ったことがある方は、「オイルがすぐに黒くなって使えなくなった」と感じたことはありませんか?
それはポリマーが劣化したからなのです。
化学合成オイルが高性能だとか、鉱物オイルは品質が悪いだとかの問題ではないのです。
余談ですが、市販の添加剤であるオイル漏れ防止剤・白煙防止剤などは、このポリマーを使っています。
10W-30に漏れ防止剤であるポリマーを入れることで、10W-40にしているだけ。
サラサラなオイルよりも粘りのあるオイルの方が漏れにくくなるからです。
オイルが黒くなる3つの理由
では、なぜオイルが黒くなるのでしょうか?
以下では、3つの理由を説明します。
①ブローバイガスの混入
摩耗したエンジンには、ブローバイガス(※)が大量に発生します。
それがクランクケース内に入り込み、オイルと混ざって黒くなってしまうのです。
逆に摩耗の少ないエンジンはブローバイガスが少ないので、影響を受けにくくなります。
※ ブローバイガスとは、下記イラストにある「2」の圧縮が漏れたガスのこと。

②ポリマーの劣化
オイルが黒くなる原因の多くは、このポリマーが劣化したことが原因です。
既にお伝えした通り、ポリマーは熱とせん断に大変弱い存在です。
ポリマーが劣化することで、オイルは黒くサラサラなオイルへと変化していくことになります。
黒く変化したオイルが燃えると、カーボンデポジット(燃えカス)、スラッジ(オイルがヘドロ化したもの)も発生させトラブルの原因となります。



カーボンデポジットは、ピストンやシリンダーヘッドに付着します。
これがロータリーには大敵となるのです。
③エンジン内部の汚れを取る力が強い
エンジンの汚れをとるエンジンオイルは、良いエンジンオイルと言われています。
汚れを取らないオイルよりも取るオイルの方がいいですよね。
しかしながら、汚れを取る力が強いと、当然弊害が出てきます。
汚れを取るエンジンオイルというのは、通常3年という年月を掛けて取る汚れを2年という短い期間で取るということです。
これを一般の方は「即効性がある」と勘違いしている部分があります。
けれども、長い目で見ると、即効性が無いことが多いのです。
なぜなら、汚れが「塊」として落ちてしまうことで、オイルの吸い込み口を塞ぎ、エンジンが焼き付いてしまう可能性があるからです。
この汚れは人間で例えると、血栓に当たります。
つまり、血栓が血液の流れを邪魔して、エンジンが死んでしまうことに繋がります。
そのため、汚れを取る際は、徐々にゆっくりと汚れを分解していく必要があります。
近年のエンジンオイルは燃費を求め、サラサラで粘りを持たないエンジンオイルになっています。
サラサラなエンジンオイルは、疲れた旧車・過走行車の摩耗したエンジンの隙間を埋める力が弱く、すぐに黒くなるため、オイルが長持ちしません。
鉱物オイルは旧車・過走行車にとってメリットだらけ
それでは、「旧車・過走行車(10万キロを超えたエンジン)に乗っている自分は、どうしたら良いのか」と思われる方もいるかもしれません。そんな方々におすすめなのが、鉱物オイル。
ここでは簡単に、「なぜ鉱物オイルが旧車・過走行車におすすめなのか」説明します。
鉱物オイルが勘違いされる理由
鉱物オイルは、「品質が悪くメリットは無い」と思われがちですが、それは誤解です。
鉱物オイルには、大きく分けてグループ1・2という2種類のグループがあります。
鉱物オイルが勘違いされてしまうのは、グループ1しか無かった時代の名残でしょう。
とても品質が悪かったのです。
使えばオイルが勝手に減る、すぐに劣化する、スラッジが大量発生する、などなど…
この悪いイメージが残り今も消えないでいます。
この原因は分子の大きさと不純物にあります。

左記はグループ1の分子を表したものです。
分子の大きさはバラバラで、不純物が多いのがグループ1の特徴です。
小さすぎる分子は、エンジンの熱により蒸発して無くなってしまい、オイルが減るという現象があります。
不純物が多いと潤滑性も出来ないデメリットもあります。
これが鉱物オイルに悪い印象を与えてしまったのです。
しかし、技術は進化していきます。
グループ1の欠点を克服したグループ2
そんなグループ1から進化したのがグループ2です。

左記はグループ2の分子を表したもの。
大きすぎる分子、小さすぎる分子を取り除き、分子の大きさが均一になりました。
これによりオイルが蒸発してしまうことも無くなり、不純物も無くなったことで、高い潤滑性を持つことが出来るようになっています。
そのため、旧車・過走行向けのエンジンには、グループ2の方がより良いパフォーマンスを発揮するのです。
ちなみに、グループ3というのもあります。
グループ3は2の分子をさらに小さくしていることで、流動性を持たせています。
しかし、グループ2・3は比較してもあまり遜色が無くなっています。
4つのオイルの作り方による違いとメリット&デメリット
① 化学合成オイル(通常)
製法
通常の製法(ポリマーを添加)
メリット
デメリット
こんな車やバイクに向いています
粘度変化曲線
すぐにオイルは黒くなってしまいますので、しっかりしたオイル管理が必要です。

② 化学合成オイル(ノンポリマー)
製法
ポリマーを使わない製法(ノンポリマー)
メリット
デメリット
こんな車やバイクに向いています
粘度変化曲線

③鉱物オイル(通常)
製法
通常の製法(ポリマーを添加)
メリット
デメリット
こんな車やバイクに向いています
粘度変化曲
「安くすませたい、オイルにはまったくこだわらない」という方は、3年経っても走行距離が少ないからといって、オイル交換をしない方が非常に多い。
その為油膜切れを起こしてエンジントラブルになる方が非常に多いので要注意。

④ 鉱物オイル(ノンポリマー)
製法
ポリマーを使わない製法(ノンポリマー)
メリット
デメリット
こんな車やバイクに向いています
粘度変化曲
化学合成でも鉱物でもノンポリマー製法は高耐久になるのです。

旧車・過走行車にお乗りの方はぜひRIZOILを!
旧車・走行距離不明・多走行、旧車・過走行車(10万キロを超えたエンジン)にお乗りの方は、
RIZOILをぜひご利用ください。

番外編:部分合成オイルについて
本記事には取り上げていませんが、「部分合成オイル」というオイルもあります。
ご存知の方は、「部分合成オイルは化学合成オイルのメリットと鉱物オイルのメリットの良いとこどり…」と思っている方もいるのではないでしょうか。
実は違います。
部分合成オイルの名称を読み解いてみましょう。
英語では、シンセティックブレンド(SYNTHETIC BLEND)と言います。
部分的に合成を混ぜているという意味。
量販店に並んでいる多くの部分合成オイルは何を使っているのでしょうか?
グループ1・3を混ぜて使っています。これが部分合成オイルです。
簡単にいうと、鉱物80%化学合成20%かもしれない…?
メーカーにより配合比率は違うと思いますが、言葉だけみると合成の比率は少なく、鉱物の比率が多い気がします。
部分鉱物オイルでは無いのですよね。
それも使っているのはグループ1です。配合比率は極秘なのです。
私が部分合成を作るのであれば、グループ2・3を使います。
ただ、グループ2・3もほぼ同じ性能なので、ブレンドする意味があまり無い気がします。
意味があるとすれば、鉱物は10Wまでしか出来ないものをグループ2・3を混ぜることで0W、5Wに出来るぐらいでしょうか。