【前編】GSX-R油冷エンジンの冷却は、なぜ誤解されてきたのかGSX-R油冷エンジンはなぜ120℃を超えてしまうのか

gsx-r-oil-cooled-overheat-120c-cooling-part1

――理論と現実が食い違った「油冷」という冷却方式

油冷エンジン

理論上は「最強」のはずだった油冷エンジン

油冷GSX-R1100Rは、登場当時、極めて合理的な冷却システムだと考えられていました。
オイルは多くの熱を吸収でき、高温域でも性能が落ちにくい。
そのため当時は、

「水冷よりも冷えるはずだ」

と本気で期待されていました。

しかし、実際のユーザーの声は次第に一致していきます。

・真夏の渋滞で油温が一気に上がる
・サーキットでは簡単に120℃を超える
・冷えてほしい場所が、まったく冷えない

理論と現実の間に、大きなズレがあった。

このページでは、そのズレがどこから生まれたのかを、
感覚論ではなく構造として整理していきます。

実体験|GSX-R焼付き事件が教えてくれたこと

これは、阿蘇山へツーリングに行った際の実体験です。
仲間が転倒して負傷し、その救援のため、先輩がGSX-R1100Rで福岡まで軽トラックを取りに戻りました。

しかし、目的地の直前でエンジンは焼き付いてしまいます。

当時は
「どれだけ飛ばしたんだ」
その程度にしか考えていませんでした。

しかし今なら分かります。

油冷エンジンでは、オイルが冷却の主役です。
高負荷が続き、オイル温度が限界を超えた瞬間、
冷却と潤滑は同時に破綻します。

それが、焼付きです。

この出来事は、
潤滑と冷却は切り離せない
という現実を突きつけました。

第1章|理論では冷えるはずだった「油冷」とは何か

なぜ油冷は「水冷より優れている」と考えられていたのか

油冷が評価された理由は、主に三つあります。

理由① 高温に強い液体だった

水は100℃で沸騰します。
一方、エンジンオイルは200℃近い温度域まで安定して液体を保ちます。

つまり、より高温域まで冷却を担当できる。
これが、油冷が期待された第一の理由でした。

理由② 意外なほど多くの熱を吸収できる

オイルは「水より冷えにくい」と思われがちですが、
実際にはまとめて大量の熱を吸収できる性質を持っています。

水は薄いタオルのように、瞬間的な吸収は得意ですが保持量は少ない。
オイルは厚いタオルのように、全体として多くの熱を抱え込める。

この特性が、冷却媒体として評価されました。

理由③ 水冷では届かないエンジン深部を直接冷やせる

水冷は、シリンダー外側を冷やす「表面冷却」です。
一方オイルは、

・ピストン裏
・カムシャフト
・クラッチ
・ミッションギア

といった、本当に熱を持つ深部に直接触れます。

これは、人体で言えば
表面体温ではなく深部体温を下げるような冷却方式です。

当時の技術者が描いていた油冷の理想像

・高温まで安定して使える
・多くの熱を吸収できる
・深部を直接冷却できる

これらが揃えば、
「油冷は水冷より冷える」
と考えるのは、自然な判断でした。

──しかし、現実は違いました。

第2章|現実の油冷が冷えなかった理由①

拾う熱に対して、捨てる場所が圧倒的に足りなかった

油冷GSX-Rが冷えなかった最大の理由は単純です。

拾う熱の量に対して、捨てる熱の出口が足りなかった。


エンジン内部は巨大な熱源の集合体

ピストン裏では爆発熱を直接受け止め、
カムでは摩擦熱が発生し、
クラッチでは摩擦熱と撹拌熱が重なり、
ミッションギアでは点接触による局所発熱が起きる。

クランクケース自体も、密閉構造として熱を抱え込みます。

オイルは、エンジン内部のあらゆる場所から熱を拾ってしまう構造でした。

熱を捨てる出口はごくわずかだった

・小型のオイルクーラー
・わずかな空冷フィン
・オイルパン

たったこれだけです。

結果として起きた熱の飽和

これは、
バケツで水を汲み続けているのに、
排水口がコップ一杯分しかない状態です。

高回転でなくても、
街乗りや渋滞であっても、
油温は簡単に120℃を超えます。

これは乗り方ではなく、構造の問題でした。

第3章|現実の油冷が冷えなかった理由②

油路流量という1980年代の壁

油冷は、冷却のほとんどをオイル流量に依存します。
しかし当時の技術では、

・油路が細い
・油路が長い
・曲がりが多い

という制約がありました。

研究論文が示す裏付け

トヨタ中央研究所、Yuら、Singhらの研究では、
油路が細く・長く・曲がるほど流量と冷却性能が落ちる
ことが示されています。

これは設計ミスではありません。
時代的な限界です。


悪循環の始まり

油温が上がる
→ 流量は増えない
→ 熱が捨てられない
→ さらに油温が上がる

これが油冷の最初の壁でした。

第4章|冷却悪化が招く潤滑崩壊の連鎖

悪循環のメカニズム

熱吸収力の低下
→ 油温上昇
→ 粘度低下
→ 添加剤分解
→ 潤滑・冷却性能喪失
→ 摩擦増加
→ さらなる油温上昇

冷却の問題は、必ず潤滑の崩壊に直結します。

第5章|潤滑性と熱対策は別問題

「高いオイル=よく滑る」という誤解

潤滑を作っているのは、ベースオイルではありません。
添加剤が作る化学膜です。

研究では、
ベースオイルの種類より
添加剤の量・反応温度・組み合わせが重要だと示されています。

Group番号は潤滑性の高さではない

第6章|グループ番号は性能の序列ではない

数字が示しているのは作り方の違い

Group番号は、性能ランクではありません。
分子構造と製造方法の違いです。

冷却に有利なのはGroup1・Group2

特にGroup2は、

・不純物が少ない
・熱を逃がしやすい
・古い設計のエンジンと相性が良い

という特性を持ちます。

冷却性能の検証動画

Youtuber”ハチャメチャパパと小坊主のガレージライフ”のご協力によりライズオイルの冷却性能を検証していただきました。

ノンポリマー鉱物オイルをもっと詳しく>>

良くある質問